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名古屋地方裁判所 昭和56年(行ウ)34号 判決 1982年2月26日

原告 株式会社 大伸開発

被告 名古屋法務局田原出張所登記官

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告

(一)  被告が原告に対し、昭和五六年八月三一日付で、愛知県渥美郡田原町大字大久保字極楽六〇番五宅地二一三平方メートル(以下「本件土地」という。)についてなした「宅地を雑種地と更正」する旨の地目更正処分を取り消す。

(二)  訴訟費用は、被告の負担とする。

2  被告

主文一、二項と同旨。

二  当事者の主張

1  原告の請求原因

(一)  原告は、昭和五二年一二月一二日、訴外加藤信二から愛知県渥美郡田原町大字大久保字極楽六〇番一山林八六九平方メートルを買い受け、昭和五三年一月一一日、原告名義に所有権移転登記手続を経由した。その後、原告は、昭和五五年一一月六日、右土地から本件土地を分筆し、そのころ、被告に対し本件土地の登記簿上の地目を山林から宅地に変更されたい旨の申請をなしたところ、被告は、調査の結果、同年一二月二〇日付でもつて本件土地の地目を山林から宅地に変更する旨の地目変更登記をした。

(二)  しかるに、被告は、昭和五六年八月一八日、原告に対し本件土地は再調査の結果、宅地を雑種地に更正する必要があるので同年八月二八日までにその旨の申請書を提出するように、もし提出がない場合には職権で更正する旨通知し、原告が右期日を徒過するや、被告は、擅に、職権により同年八月三一日付をもつて、「登記簿上の地目宅地とあるを雑種地に更正」する旨の錯誤を原因とする更正処分(以下「本件処分」という。)をなした。

(三)  しかし、本件処分は違法である。すなわち、本件土地は、事実上幅員五メートル以上の舗装道路に面しているのみならず、道路の向い側は、宅地となつて建物も築造されており、東側隣地には現在でも倉庫が築造されている。しかも本件土地は、昭和一一、一二年ころ鶏舎の一部として使用されたこともある。したがつて、以上の事実からすると、本件土地は、地目が山林であつた当時から宅地であつたというべきである。

してみると、本件土地の地目を山林から宅地に変更した昭和五五年一二月二〇日の処分は正しい処分であり、本件土地の地目を宅地から雑種地に更正した本件処分は、明らかな事実誤認に基づく違法な処分である。

(四)  以上の次第であるから、本件処分の取消を求める。

2  被告の本案前の答弁

被告が職権により原告主張の日時にその主張のとおりの本件処分をなしたことは認める。

しかし、土地登記簿の地目の表示は、登記の目的物である土地について、その同一性を識別する目的から該土地の現況を記載公示するに止まるものであつて、これによつて該土地の所有者その他関係人の権利義務を形成し、あるいはその範囲を確定する性質を有するものでないから、地目の更正登記は、行訴法三条所定の抗告訴訟の対象たる処分性を有しない。

もつとも、本件土地が市街化調整区域内に存することは、原告主張のとおりであるが、法令上建物の建築が原告主張のように制約を受けるか否かは、もつぱら、本件土地の現況により決定されるのであり、登記簿上の地目により決定されるものではないから、本件処分により、原告は、当然に建築制限を受けることはない。

よつて、本件訴えは、不適法であるから、速やかに却下されるべきである。

3  本案前の答弁に対する原告の反論

本件土地は市街化調整区域内に存するところ、都市計画法四三条、同施行令三四条、三五条によれば、市街化調整区域内の土地に関しては、地目が宅地であれば、建築制限を受けないが、地目が雑種地であれば、建築制限を受けるから、本件処分により、原告は法令上建築制限という不利益を受けるのみならず、本件土地を売却するについても、地目が雑種地と更正されたことにより、地目が宅地であつたときよりも低価格となり、経済上の不利益を蒙る。

よつて、本件訴えには、訴えの利益が存するというべきである。

三  証拠<省略>

理由

一  被告が職権により昭和五六年八月三一日付をもつて本件土地につき、錯誤を原因として、登記簿上の地目を宅地から雑種地に更正する旨の本件処分をなしたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲一号証によれば、原告主張の日時に本件土地の地目は山林から宅地に地目変更登記がなされていることが認められる。

二  よつて、まず、被告のなした本件処分が行訴法三条二項所定の処分性を有するか否かについて審按する。

不動産登記法にいう不動産の表示登記(地目、地積等の登記)は、当該不動産の同一性を識別する目的から、当該不動産についての物理的な現況を登記簿に公示する制度であり、同法は、表示登記の右のような性質にかんがみ、登記官が職権を以つてこれをすることができるものとし(同法二五条の二)、そのために登記官に職権調査権を賦与している(同法五〇条一項)。本件処分は、被告が、現況を再調査の上、前記地目変更登記を現況に反するものと認めてなされたものであることは、成立に争いのない甲三号証により明らかであるから、本件処分は、登記官の有する前記職権調査権の発動としてなされたものであることは明らかである。

しかしながら、登記官のなす表示登記ないしその更正登記は、当該不動産の権利関係、物理的形状等を確定する効力を有するものでないことは多言を要しないところであり、本件土地が、宅地であるか雑種地であるかは、もつぱら、本件土地の客観的形状により決せられるべきである。

従つて、本件処分は、本件土地に関する原告の権利に法的変動を生ぜさせるものとは言えない。

してみると、本件処分は、行訴法三条二項所定の処分性を有しないというべきである。

もつとも本件土地が市街化調整区域内に存することは当事者間に争いがなく、都市計画法四三条一項六号ロによれば、市街化調整区域に関する都市計画が決定された際、既に宅地であつた土地であり、かつ、その旨の都道府県知事の確認を受けたものであるときは、同条一項本文所定の建築等の制限を受けないことは明らかである。そして、同条一項六号ロにいう「宅地であつた土地」であるか否かは、その土地の当時の客観的形状によつて決められることであり、登記簿上の地目の表示によつて決められることではない。これに反する原告の主張は採用できない。

してみると、本件土地が市街化調整区域内に存しているという事実は、本件処分が原告に法律上の不利益を生ぜしめる事由とは認められないから、右事実は、本件処分の処分性を肯認するに足りる資料となし難いことは多言を要しない。

三  以上の次第で原告の本件請求は不適法であるからその余の点について判断するまでもなく、却下することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本武 澤田経夫 加登屋健治)

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